福島民報新聞様  2022.5.15「民報サロン」掲載

100人いれば人生100通り


  思い返せば三十年ほど前、結婚式の司会者になりました。当時の師匠の教えは「進行者であるが、演出者でもあること」。人生最大のイベントとも言える結婚式は、新郎と新婦だけのものではなく、二人を育てあげた両親、見守って来られた親戚、友人、仕事先の皆様のためのものでもあります。二人の人生に携わっている全ての方々へ感謝や真心をお伝えし、夫婦となる第一歩をお披露目する場です。幸せを共有するナビゲーターとして綺麗に話すだけではなく、二人が歩んできたストーリーを表現したり、想いを代弁したりする必要があります。寄り添いながら大切に言葉を紡ぐよう、マインド重視の指導を受けました。

 当時は「ブライダルバブル」と言われるほど結婚式の全盛期でした。私のフィールドである大型結婚式場は、週末となれば二十組以上の婚礼がある中、支配人からは「百組いても百分の一の仕事ではなく一分の一の仕事をするべし」。一組ごとに結婚までの人生ドラマがあり、その背景に想いをはせながら仕事をすることを肝に銘じられました。その教えが今でも私の中で息づいています。

 元々、人が好きです。一期一会の中で何千人というお客さまと接し、思いを受け止めて来ました。司会の役割の一つに新郎・新婦の紹介があり、事前に数時間を費やしてヒアリングを重ねます。それが現在のコミュニケーション講師としてのベースになっていると言えます。結婚式の主役である二人が最大限に輝くには、自身が弱みと認識している部分を強みに変換する。例えば「せっかちなんです」は「行動が速い」。「マイペースです」は「自分軸を持ってっている」。「優柔不断です」は「相手の気持ちを優先させる」。謙遜される余り、ネガティブワードも飛び出す場合もありますが、それを全てポジティブに変えて二人の魅力を引き出し、伝えるのも司会者としてのミッションです。改めて自身の性格と向き合う顔に笑みがこぼれます。短い時間の中で信頼の構築をする。私にとってヒアリングはとても重要で、多面的魅力の発見は得意分野になった気がします。結婚式当日、マイクを持つばかりではなく、目の前にいる人と向き合う、関わり合っていく仕事は私の天職だと思っています。

コロナ禍において世の中のデジタル化が加速しようと、ダイヤモンドはダイヤモンドでしか磨かれないように、人間は人間との関わり合いでしか成長できません。私が現在取り組む企業さまでの「人材育成」でも、さまざまな課題の中で、いかに一人一人と向き合い「違い」を受け入れ「個性」と尊重できるかが、多様化する社会での解決策となるのではないでしょうか。

人は百人いれば百通りの人格があります。目の前の人を自分目線で決めつけるのではなく、その背景があり、人格があることを教えてくれたのが結婚式という現場です。どの現場であれ、忘れてはならないのは、お客さまに寄り添い、想いを大切につないでいくこと。これからも自分の在り方だと思っています。(郡山市安積町、アシスト社長)

5月15日 第1回掲載

第二回目の掲載予定は、6月3日です

福島民報新聞社様  2022.6.3「民報サロン」掲載

「愛情あるおせっかい」  

   とある婚活イベントの会場でのこと。私は会場内を縦横無尽に飛び回わり、場内がにぎわっているか、一人でぽつんと立ち尽くしている参加者はいないか、などをチェックしていきます。会場の空気を察知しながら、緊張している人には積極的に声をかけて和ませたり、場を盛り上げたり、背中を押したり、必要に応じてアドバイスをしたりします。限られた時間内で、初対面の男女同士のマッチングを一組でも多く成立させるのが、私に与えられたミッションなのです。  
   十年程前、司会として婚活イベントに参加し、目の前で繰り広げられている光景に思わずがくぜんとしました。参加者はカップリングが目的であるはずなのに、誰も行動を起こそうとしていませんでした。ただ時間だけが経過していきます。結局、カップルの誕生に至ったケースはごく少数に終わるという厳しい現実を突きつけられました。今の若者は、仕事に追われて出会いの機会が少ない上、バーチャルの場面は得意でも、リアルな人間関係を築くのが苦手な人が多いようです。また、失敗するのが怖いのでしょう、恋愛にきちんと向き合える人が少ないように思います 。

  私はもともとおせっかいな性格なので、とてもじっとしてはいられません(笑)。司会をするだけではなく、男女の出会いの場を創出し結婚へと導きたい。自分に何か出来ないかと思い立ち、「異性間コミュニケーション認定講師」の資格を取得しました。
   異性間コミュニケーションとは、脳科学、心理学、生物学、環境学、社会学、歴史、倫理、成功哲学などの中から、男女間に特化したスキルを体系化し、有効で効率的なコミュニケーションとして実生活に落とし込んだものです。再現性が高く、男女の思考の違いからくるミスコミュニケーションが軽減できます。婚活イベントの開催前に参加者にこのスキルをレクチャーすることで、マッチング率の向上へと導くことが出来ました。近年、行政機関も、結婚しない若者や、晩婚化・少子化の問題の対応に取り組むようになっています。婚活支援を扱うための部署を設ける場合もあります。それほど深刻な問題になっているのです。こうした状況を受け、私は婚活のイベントやセミナーの企画・運営に一層力を入れるため、2013(平成二十五)年、「あなたの結婚というゴールをアシストする」という想いを込めた、「アシスト」という名前の会社を設立しました。
     婚活者や婚活支援者に向けた講演会に数多く登壇し、「人は支え合いながら生きていくもの」と改めて人生での結婚の必要性を伝えています。婚活イベントを通して知り合った若者とは友達のような関係性を持ち、LINEを通じて悩みを聞くこともあります。その結果として成婚の報告をいただくのが一番の喜びです。そんなカップルの結婚式で司会を務めることもあり、この幸せの共有が私の活動の原動力となっています。これからも結婚だけではなく、幸せという人生のゴールをつかめるよう、愛情あるおせっかいを惜しみなく与え続けていきたいと思っています。
(郡山市安積町、アシスト社長)




   

福島民報「民報サロン」6月3日掲載


第三回目の掲載予定は、6月23日です

 

2022.6.23 福島民報新聞様 「民報サロン」掲載

時を超えて重なる思い 


    学生時代に「将来、警察官になりたい」と友人に話したところ、「あなたは無鉄砲に犯人を追いかけ危険な目に合うのがオチだからやめなさい」と止められたことがありました。客観的視点から、私は正義感が人並み以上に強いらしく、こうと思ったら考える前に身体が動くタイプだそうで、とてもではないですが犯人逮捕の前に殉職してしまうのではないかと心配したからだそうです。
   人の人格形成は幼少期の家族環境や地域性、経験が土台になると言われています。私の兄は知的障害があり、幼い頃から小学校に至るまで、妹である私がいつもそばで行動を共にして来ました。特別支援学級で過ごす兄と登下校していた際、近所の男の子たちに待ち伏せされたり、からかわれたり、いじめられたりしたこともありました。幼心にも「兄を守らなければならない」という正義感が育まれたのはこの時期。内心は臆病者のくせに人前で度胸ある振る舞いが出来るようになったのも、この頃身につけた術なのかもしれません。警察官になりたいという思いはそんな経験から、人は皆平等である事を、モラルやマナーから伝える立場で人の役に立ちたいと考えたからだと思います。
    私は現在、研修講師として企業へ訪問しています。人材育成と様々な課題解決に向けて取り組んでいますが、日々思うことは「研修は特効薬にはならない」ということ。エビングハウスの忘却曲線から、人の記憶は学んだ事を1時間で56%、1日後には74%忘れるそうです。だからこそ学びの継続による習慣化が必要で、習慣を定着に繋げる為に、研修後のフォローアップとして個人面談を取り入れました。従業員1人1人の声に耳を傾けている中、多くの問題の本質はコミュニケーション不足である所にたどり着きます。そこで私は、「経営者と従業員の架け橋」になろうと心に決めたのです。利害関係が無い社外人材として、縦社会での序列、男女間の思考の違い、世代間価値観のギャップなどから発生する、勘違いや思い込みの擦り合わせをしています。
   例えば、とあるプロジェクトチーム。結果を出した女性社員に対して男性上司が称賛しました。しかし女性社員は褒められたと受け止める事ができず、互いの関係性がギクシャクしてしまったのです。そもそも男女では物事に対しての捉え方に違いがあります。褒めるという行為にしても、どの部分にフォーカスするのかによって誤解が生まれ、正確に伝わらない事例がほとんどと言って過言ではありません。男女の違いに特化したコミュニケーション講師である私は、すかさず面談で擦り合わせをし、溝が深まらない内に修正していきます。お互いの気持ちを尊重しながら、中立の立場で改善すべき点は改善して頂く。全ては1人1人の個性が輝き、働きやすい職場環境づくりにお役に立ちたいという願いからです。
   考えてみると、学生時代の警察官を目指そうとした当時の思いと、研修講師としての現在の思いが、時を越えてリンクしているように思えます。実は本日は、偶然にも私の誕生日。改めて幼い頃を思い起こし、今の自分を振り返る良い機会になりました。(郡山市安積町、アシスト社長) 

第四回目の掲載予定は、7月13日です

2022.7.12福島民報新聞社様「民報サロン」掲載

よみがえる熱い夏

「郡山の渡辺謙悟は、直球にスライダーとシンカーを交え、許した得点は一回の1点のみ。主戦として学法石川打線に真っ向から勝負を挑んだが、味方の援護のないまま、九回2死二、三塁で遊ゴロに倒れ、一塁ベース上でうなだれ、悔しさをにじませた」
  これは二〇一四(平成二十六)年夏の高校野球福島大会の新聞記事です。ヘッドスライディングで顔とユニホームが真っ黒になった息子の写真と共に掲載されました。この季節が来るたびに、あの熱い夏がよみがえります。
息子が小学校二年生からソフトボールを始め、三年生でマウンドに立つようになると、ソフトボールはわが家の生活の一部になりました。試合や練習の際の送り迎え、お弁当作り、水分補給のお茶当番、試合の応援…。土日は結婚式の司会の仕事をしていたので、試合をぎりぎりまで見守り、仕事が終了次第、グラウンドに駆けつけるという慌ただしい日々を送っていましたが、真剣に白球と向き合う子どもたちの純粋な姿を見ていると、心が洗われ、疲れが吹き飛ぶのでした。
  息子の夢は小学生の頃から、甲子園での活躍でした。中学生からクラブチームで硬球に触れ、地元の公立高校に進学しました。私立の強豪を破り、甲子園に乗り込みたいという決意があったようです。高校二年生の秋季大会では、九回、十九奪三振という県記録に迫る好投を見せ、一気に注目を集めるサブマリン(アンダースロー投手)となりました。本人も努力をしたのでしょうが、息子を支えてくれた数多くの方々に感謝の思いしかありません。集大成として挑んだ最後の夏、夢はかないませんでしたが、何にも代えがたい宝物のような経験を息子も私自身もさせていただけたことは、最高の幸せとして今でも人生の輝きです。
  さて、話はそこからです。私は大会が終わっても、土で真っ黒になったユニホームを洗えないまま、ハンガーにかけ、部屋に飾っていました。洗ってしまうと、高校野球との決別を現実として受け止めなければならない気がしたのです。しかし、気が抜けたままの母親を横目に、息子は一週間もたたないうちに、赤本(大学入試の過去問題集)を取り出しました。母の思いを置き去りにして、次なる挑戦は始まっていたのです。今、思えば、この切り替えの早さは「目標設定」の違いからと思われます。息子の目標は「甲子園」であり、高校の三年間での完結です。一方、私は、この先も息子が野球を続けると信じ、次のステージでの活躍という曖昧なイメージを抱いていました。
  目標設定の手法に「GROWモデル」があります。「G」ゴール目標の設定、「R」リアリティー:現状の把握、「O」オプション:選択種の創出、「W」ウィル:行動計画の意味です。ゴールを決め、現状とのギャップを埋めていく。具体性と明確さ、期間の決定、貫く意志の強さが必要です。今思えば、母と息子のゴール設定の違いが、そのまま行動として表れていたのです。
   今年も甲子園を懸けた夏の高校野球福島大会が開幕しました。出場する全ての球児悔いいのない戦いをしてほしい思いでいっぱいです。(郡山市安積町、アシスト社長)


次回掲載は2022.8.1予定です

2022.8.1 福島民報新聞社様「民報サロン」掲載

「聞き上手のすすめ」

    講演した後のクライアントとの会話です。「面白くなかったですか?」「そんなことはありません」「会場に笑いがありませんでしたが」「先生の話は真剣に聞くもの、笑うなんてもってのほかだと教えられてきましたから」
   講師として、ありがたくも多数登壇させていただいております。依頼主は経営者団体が多く、その場合、聴講者の九割超が男性です。皆さん真剣なまなざしで、微動だにせずに聞いてくださいます。笑ってもらうはずのフレーズに反応がなかった時、思い切って聞いてしまいました。
   なるほど男性は、先生と受講生、経営者と従業員、先輩と後輩など、序列を軸とした縦社会に生きる人が多いようです。だからこそ、ルールや論理を重んじながら上手にお付き合いしているのでしょう。
一方で女性の場合は、講演の前から笑顔で駆け寄ってきてくださり、「先生のワンピースはすてきですね」「ご家族に年配の方がいて大変ですね」など、共感ワードがどんどん飛び出し、こちらの緊張を緩めてくれます。講演中もリアクション良く反応してくださって会場には笑い声があふれます。「先生って、オンナきみまろ(綾小路きみまろ)みたい」なんて言っていただけるほどで、こちらも気持ちが高揚し、予定外のことまで話して時間をオーバーしてしまうことも多々あります。そうです、女性の多くは横並びの資質を持ち仲間としてつながり、協調し合い、安心して心地よい関係性を築きたいのです。男性は「縦」、女性は「横」がコミュニケーションのキーワードになります。
   女性は感情の生きものと言われます。気持ちが一番のファクターとなり、浮き沈みによって、仕事のパフォーマンスが左右されてしまうこともあるのです。それは上司にとっても同じことが言えます。実力や仕事の効率が上がる体制づくりだけではなく、安心して楽しく働ける職場の雰囲気づくりや、ある程度の心のケアができる人柄がプラスアルファの信頼や尊敬につながります。
   弊社の業務の一つである「社外社外人材による面談」の中で、女子社員が「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」を怠ったためにミスが拡大してしまったという事例が出てきました。よくよく話を聞いてみると、上司が怖いという気持ちが判断基準となり、伝達が遅れてしまったのが要因でした。これは、仕事と自分の感情を分けて捉えにくいという女性ならではの特徴の一つです。
   日頃から部下とのコミュニケーションを育むためには「1on1ミーティング」などの時間を設け、雑談をする必要があります。相手の話を最後まで聞いて相づちを打ち、共感や承認をしながら歩み寄ります。それでも会話が弾まない場合もありますが、相手に話をさせるのは自分次第であること。それは大人数相手でも、一対一であっても同じだ、日頃の講演会や面談の中から実感しています。

    職場マネジメントの変換期が来ている今だからこそ、「異性異性間コミュニケーション講師」として男女間、世代間の多様性に理解を深めていただき、より良い人間関係づくりのお手伝いをしたいと考えています。 

(郡山市安積町、アシスト社長) 

                                                                                   福島民報新聞様  2022.8.20「民報サロン」掲載

幸せをアシストしたい


仕事から疲れて帰宅すると、先に帰っていた夫が、何やらボーっとテレビを見ている姿にいらっとする。週末、夫をリフレッシュさせてあげようとドライブに誘ったのに、「僕は家にいた方がいいから」という返答にがっかりする…。以前の私はそんな思いを抱いていた。あのままの状態でいたら、夫婦の溝が深まっていたのではないかと思うと、ぞっとします。
異性間コミュニケーションというスキルを学んだのはちょうどその頃です。生物学の観点から、男女のストレス解消法には違いがあると知りました。女性がストレスを解消する手段の最たるものは、友達とのおしゃべりやウインドーショッピングなど。外で発散するものが多い傾向にあります。対して男性は、お酒をゆっくりと味わったり、ゲームに没頭したり、寝ること!と言った方もいました。内側に向いている傾向です。
   内と外―。正反対なのだと分かると、夫の行動がふに落ちました。テレビをただ見ていたのではなく、きっと一日のストレスを解消していたのです。脳内思考のクリーニングをしないと、翌日の仕事に臨めないから、無になる時間が必要なのでしょう。週末のドライブも、私にとってはリフレッシュになっても、夫には苦痛だったのかも知れません。一人になりたい時もあるよね、それなのに家族サービスに付き合ってくれてありがとう。ストレス解消の違いを知れば、こんな感謝の思いまであふれてきます。
  コミュニケーションを取るには相手の特性を知ることが大事。幼少期には自分がしてほしいことを他人にもやってあげましょうと教えられました。しかし、成長するにつれ、必ずしも、自分がしてほしいことを、相手がしてほしいとは限らないことに気づきます。相手がしてほしいことを相手の立場になって考えて行動する「相手ありきのコミュニケーション」が異性間コミュニケーションの考え方なのです。
「夫婦は一対の反射鏡」というフレーズは、何度も登壇させていただいている経営者団体の教えの一節です。一対ではありますが、もともとは赤の他人だと考えれば、写し鏡として対立ではなく、対等な立場で向き合い、正しく歩み寄ることが必要です。例えば、夫が不機嫌だと、妻も笑顔を忘れてしまってはいまいか、夫が妻をねぎらっていれば、妻も夫を尊敬して頼っているのではないか。どちらが正しいかというジャッジにとらわれると、上下関係ができて、自然とどちらか一方が不満をためこんでいくことになります。夫婦は、互いの良い所も悪い所も全部映し出してくれる特別な関係です。だからこそ、もっと互いに歩み寄る努力が必要なのだと思います。
   世界で最小ではあるが、一番大切なコミュニティーが家族です。基盤となる家族というコミュニティーをしっかりと整えることができずに、会社や社会が良くなるはずがないと思うのは私だけでしょうか。今後もコミュニケーション講師として「あなたは何のために仕事をするのか?」「あなたの幸せのゴールとは?」と問いかけ、より良い人生を送るためのアシストをしていきたいと思っています。(郡山市安積町、アシスト社長)